ネット上でのつきまといや誹謗中傷などの行為をする人をネットストーカーと呼びますが、ネットストーカーの被害を受け警察に相談した場合、何をしてくれるのでしょうか。
ネットに関してはまだまだ警察が動いてくれないイメージもお持ちかと思いますが、2013年にストーカー規制法の改正を受けて、つきまといや頻繁に連絡することを拒否しているにも関わらず、電子メールをしつこく送りつける行為を対象としたり、2017年の2度目の改正で、SNSによる連続のメッセージ送信も対象にするなど、少しずつですがネットストーカーへの警察の対応が良くなってきたと言えます。
2017年1月3日と同年6月14日に施行された改正ストーカー規制法で変わった部分は下記の通りです。ストーカー規制法が改正されたのは2013年に続き2度目です。
2度目のストーカー規制法改正で変わったところ | ||
項目 | 以前まで | 2017年の改正後 |
罰則 | 懲役6ヶ月以下・罰金50万円以下 | 懲役1年以下・罰金100万円以下 |
禁止命令違反の罰則 | 懲役1年以下・罰金100万円以下 | 懲役2年以下・罰金200万円以下 |
禁止命令が出されていないとき | 親告罪 | 非親告罪 |
禁止命令 | 事前の警告は必要だった | 緊急時なら事前の警告なしで禁止命令を出せる |
参考:警視庁 ストーカー規制法
ネットストーカーの被害を受けたときに警察はなにをするのかということを中心にお話させていただきます。
ネットストーカー被害で警察はどの程度動いてくれるのか
相談後、障害や脅迫などの行為が明確に為されていなければ警察はなかなか動いてくれません。改正の結果、警告なしの禁止命令が出せるようになりましたが、ストーカーに対する警察の対応が今後どのように変わるのかはまだわかりません。
ネットストーカーの被害を警察へ相談したらやってくれること
通常、はじめに警察に相談をした後、ストーカー行為が繰り返しおこなわれていると加害者へ警告が行きます。警告を出してもなおストーカー行為が続く場合に禁止命令がでます。
ネット上のつきまとい行為の抑制
TwitterやFacebook、LINEなどのSNSやブログで交際を求めたり、暴言を吐くなどのメッセージは、2000年に制定されたストーカー規制法ではつきまといとはみなされませんでした。
しかし、時代の変化に対応するために前述のとおり、SNSが対象になったので以前より警察が動きやすくなったといえるでしょう。
#9110番にかけて警察へストーカー被害について早めに相談しよう
#9110を押すと管轄の警察の総合相談窓口へ繋がります。事件の発生はまだだけどもストーカーやDVなどの不安を持っている場合に相談ができます。110番と異なる点は緊急性の部分で、命が狙われているといった危機が迫っているときは110番しましょう。
受付時間:平日の午前8:00~午後5:15分
土日、祝日、時間外は一部を除き当直か音声案内での対応をしています。
ネットに留まらず加害者が会いに来たとき
ストーカーの相談相手として弁護士などが挙げられますが、まずは警察へ相談しに行きましょう。被害者の了承を得た上で、110番緊急通報登録システムに登録することで被害状況や被害者本人の住所や電話番号といった情報を、警察に教えておくことができます。
万が一、襲われそうな状況に見舞われたとき、通報する猶予があれば110番をすると思います。そのようなとき、前もって警察に相談をしておくことで被害者、加害者双方の情報を警察は知っている状態なのでより迅速で適切な対処につながるのです。
参考:政府広報オンライン 生活の安全に関する不安や悩みは警察相談専用電話#9110へご相談ください
SNSや匿名掲示板の誹謗中傷への対応
誹謗中傷もネットストーカーの一種とされています。TwitterやFacebookといったSNSや2ちゃんねるのような匿名掲示板などネット上においても他者を中傷した場合、名誉毀損罪や侮辱罪あるいはプライバシーの侵害に問われる場合があります。
侮辱と名誉毀損は刑事事件の対象ですので、抵触すれば逮捕してくれる可能性もあります。
ネット上で誹謗中傷をされたら警察へ |
掲示板やSNSなどで誹謗中傷されていることが明確にわかるようであれば警察へ相談しましょう。このとき証拠として誹謗中傷されているとわかる部分を印刷して持参します。警察が介入することによってサイトの運営者も対応してくれる可能性が上がります。
また、警察が捜査関係事項照会書を運営側に出すことができ、ユーザー情報を照会しやすくできます。運営側としては任意ではあるのですが、ユーザーが刑事責任を果たすべき状況であれば運営も捜査に協力するでしょう。 |
ネットストーカー被害における侮辱罪と名誉毀損罪とは?
侮辱罪 | 抽象的なものでも認められる可能性がある
事実かどうかに関わらず、公然と他者を侮辱した場合当てはまるのが侮辱罪です。抽象的なものでも侮辱罪となりうるので、後述の名誉毀損で問題なくとも侮辱罪になる可能性があります。
侮辱罪は刑法231条によって定められています。
(侮辱)
第二百三十一条 事実を摘示しなくても、公然と人を侮辱した者は、拘留又は科料に処する。
引用:e-Gov 刑法
名誉毀損罪 | 他者の社会的評価を下げる行為
具体的な事実を多数の人物にわかるように伝えた上で公然と他者の社会的評価を下げる損なうこと又は社会的評価(客観的な評価)を下げる可能性のある発言を文章や口頭でおこなったときに名誉毀損罪になる可能性があります。
侮辱罪と異なり、抽象的であったり具体性の無いものに関しては社会的評価を下げるものではないとされているので、当てはまりません。名誉毀損罪は刑法230条によって定められています。刑事罰として3年以下の懲役もしくは禁錮もしくは50万円以下の罰金に処されます。
(名誉毀損)
第二百三十条 公然と事実を摘示し、人の名誉を毀損した者は、その事実の有無にかかわらず、三年以下の懲役若しくは禁錮又は五十万円以下の罰金に処する。
2 死者の名誉を毀損した者は、虚偽の事実を摘示することによってした場合でなければ、罰しない。
引用:e-Gov 刑法
また名誉毀損は刑事のみならず民事でも訴えることができます。社会的評価の低下から回復するためのものと不法行為に対する損害賠償として下記のものが挙げられます。
- 民法709条 不法行為による損害賠償
- 民法723条 名誉毀損における原状回復
(不法行為による損害賠償)
第七百九条 故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
(名誉毀損における原状回復)
第七百二十三条 他人の名誉を毀損した者に対しては、裁判所は、被害者の請求により、損害賠償に代えて、又は損害賠償とともに、名誉を回復するのに適当な処分を命ずることができる。
引用:e-gov民法
警察が対応できないケースと弁護士に相談すべき問題
いまや私達の私生活を簡単にSNSやブログで公開できるようになりましたが、それは他者によって不本意に晒されてしまうこともあるのです。
ここで挙げられるのがプライバシー権と肖像権ですが、この2つを明文化して規定している法律は日本にはなく、警察には民事不介入の原則があり、刑事罰を受けることがない事件に関して警察は動いてくれません。
この場合は弁護士などに相談すべきケースと言え、民事上の損害賠償として請求することができます。ここではまず、警察が対応できない民事系の事件についてご紹介していきます。
プライバシーの侵害 | 他人の私生活を公開し心理的なダメージを負わせる
侮辱罪、名誉毀損と異なり、プライバシー権の侵害は民法の領域で、プライバシー権(私生活をみだりに公開されない保証ないし権利)を侵害した場合に当てはまります。名誉毀損と異なり、社会的評価の低下は関係ありません。一方で偶然映り込んでしまった写真などはプライバシーの侵害とは言えません。
肖像権の侵害 | 映り込んだだけでも抵触する
肖像権とは、承諾なく容貌がわかる写真や映像などを撮られたり、公開されたりすることを望まない主張ができる権利のことです。
プライバシーの侵害に似ていますが、肖像権の侵害は、容貌を無断で撮影されたり、公開されたものに限られるため、文章で私生活などを晒された場合には当てはまりません。
また異なる点として、肖像権の侵害は偶然映ってしまった写真なども対象になるところです。とはいえ実際のところ、肖像権侵害が認められるかどうかは曖昧なところで、拡散されやすいところに公開されているかだとか、プライベート性が高いかどうかの違いで判断され、場合によっては承諾なしで偶然映りこんだ写真や映像などでも肖像権の侵害と見做されないこともあります。
差止請求や慰謝料の請求ができる
プライバシー権も肖像権も共に侵害されれば差止請求と損害賠償請求ができます。対象が画像や動画、ネットニュースの記事などの場合、一刻も早く削除をしなければどんどん広がります。また精神的苦痛を受けた場合に慰謝料を請求することができます。
SNSの運営や投稿者、ニュースの配信元などに削除請求をしたとしても、必ずしも応じてくれるとは限りません。弁護士に相談して対処していきましょう。
まとめ
誹謗中傷や肖像権の侵害などの被害に遭った場合、場合によっては何年もあなたの尊厳を傷つける場合があります。なるべく早く対処して傷口を広げないように警察へ相談しましょう。