協議離婚は夫婦の話し合いで成立するもっとも一般的な離婚方法です。協議離婚で子どもの親権を決めるには、どういった方法が適しているのか、また親権を決めるときのポイントについてみていきたいと思います。
また、親なら誰もが大切な子どもを手放したくないと考えるでしょう。ここでは、親権を決める際に気をつけるべきことや、親権問題でもめてしまったときのことも視野に入れてお話していきたいと思います。
親権の2つの種類|協議離婚前に知っておくべき親の権利
親権は身上監護権と財産管理権の2つに分けられるのをご存知でしょうか。以下では2つの違いについてみていきたいと思います。
身上監護権
身上監護権とは子どものしつけや教育といった世話を行う権利のことを言い、主に下記の4つがあります。
1:身分行為の代理権
子どもが法律上の行為を行う際の親の同意や代理権のこと。
- 未成年の子が婚姻をするには、父母の同意を得なければならない(第七百三十七条)
- 前条の規定による否認権は、子又は親権を行う母に対する嫡出否認の訴えによって行う。親権を行う母がないときは、家庭裁判所は、特別代理人を選任しなければならない。 (嫡出否認の訴え|第七百七十五条)
- 子、その直系卑属又はこれらの者の法定代理人は、認知の訴えを提起することができる。ただし、父又は母の死亡の日から三年を経過したときは、この限りでない。 (認知の訴え)(認知の訴え|第七百八十七条)
- 第七百九十二条の規定に違反した縁組は、養親又はその法定代理人から、その取消しを家庭裁判所に請求することができる。ただし、養親が、成年に達した後六箇月を経過し、又は追認をしたときは、この限りでない。(養親が未成年者である場合の縁組の取消し|第八百四条)
引用元:民法
2:居所指定権
子どもの居所を指定する権利のこと。
(居所の指定)
第八百二十一条
子は、親権を行う者が指定した場所に、その居所を定めなければならない。
引用元:民法
3:懲戒権
親がしつけをする権利のこと。
(懲戒)
第八百二十二条
親権を行う者は、第八百二十条の規定による監護及び教育に必要な範囲内でその子を懲戒することができる。
引用元:民法
4:職業許可権
子どもが職業を営む際に許可する権利のこと。
(職業の許可)
第八百二十三条 子は、親権を行う者の許可を得なければ、職業を営むことができない。
引用元:民法
財産管理権
子どもに財産がある場合は、子どもの代わりに財産を管理する権利のことをいいます。財産管理権を持っていれば契約や裁判などの法律行為も子どもに代わって行うことができます。
(財産の管理及び代表)
第八百二十四条 親権を行う者は、子の財産を管理し、かつ、その財産に関する法律行為についてその子を代表する。ただし、その子の行為を目的とする債務を生ずべき場合には、本人の同意を得なければならない。
引用元:民法
身上監護権と財産管理権をぞれぞれ父親と母親で分ける場合もあります。また、離婚をする際は身上監護権と親権者をそれぞれ別の人に定めることも可能です。
親権と監護権を分けた場合
例えば親権は父親にあるが、身上監護権は母親が持つといったケースもあります。この場合、親権を持ったのは父親ですが、仕事で留守にすることが多いため、身上監護権は母親に渡して、親権を持たない母親が子どもと同居することも可能なのです。
パターン別|子どもの親権者の決め方
子どもの親権者の決め方をパターン別にみていきましょう。
子どもが2人以上いるとき
子どもの年齢が低い場合はとくに、どちらかの親が子ども全員の親権者になります。原則的に子どもによって親権者を分けることはできません。親権者を分けることができるのは子どもが10歳以上であるなど、ある程度の年齢である場合は、親権者を分けられることもあります。
すでに別居中のとき
離婚前でもすでに別居している場合は、別居中に子どもと住んでいる方の親が親権を持てる可能性が高いです。
妊娠中のとき
子どもが生まれていない妊娠中の場合は、よほどのことがない限り母親が親権を持ちます。
年齢別|子どもの親権者の決め方
子どもの年齢によっても親権者の決め方は異なってきます。ここでは年齢別に親権者をどう決めるのか考えていきましょう。
10歳までは母親が親権を持つのが一般的
よほどの事情がない限り、10歳くらいまでは母親が親権者になることが多いです。理由として子どもが幼いことから生活に関わる全ての世話をする必要があるからです。
10歳未満でも父親が親権を持つ場合もある
状況によっては10歳未満でも父親が親権を持てる場合があります。例えば、離婚前に母親が子どもを置いて勝手に出て行ってしまい、父親が代わりに残された子どもの世話を行っていたとします。
この場合、どんなに母親が親権を主張しても、残された子どもはもともと住んでいた家で父親と暮らしている以上、学校など生活環境が変わらないことや父親でも問題なく生活を送っている点が重視されます。
このように父親といたほうが子どもの為であると判断された場合は、父親が親権を持つことも十分考えられるのです。
10歳以上は子どもの意思を尊重
10歳以上になると、子どももどちらの親と一緒にいたいか意思がはっきりとわかるようになります。この場合は子どもの意思を第一に尊重して親権者を決めるべきといえるでしょう。
専業主婦でも親権者になれる|収入がなくても大丈夫
子どもの親権を決める際に経済力はそれほど考慮されない場合が多いです。例えば収入のない専業主婦であっても父親が養育費をしっかりと払えば専業主婦であっても子どもを育てることができるからです。
20歳以上は子どもの親権者は必要ない
成人を迎えた子どもに親権者を決める必要はありません。
協議離婚で親権者が決定したらやるべきこと
協議離婚で親権者が決まった時点でやるべきことをお伝えします。
離婚協議書を作成する
まずは、離婚協議書を作成しましょう。離婚協議書とは離婚に関する様々な決め事を書き残す書面のことをいいます。口約束だけでは後々もめることもありますので、しっかりと書面に残すことが大切です。
離婚協議書を作成するための決められた書式はなく、自由に作成することができます。
離婚協議書の記入例
決められた書式はない離婚協議書ですが、ここでは記入例を紹介したいと思います。
離婚に伴う契約の離婚協議書匿名太郎(以下甲とする)と匿名花子(以下乙とする)は、本日協議離婚をすることに合意し、その届出にあたり、下記のとおり契約を締結した。第1条(契約の目的) 甲と乙はこの度、協議離婚をするにあたり、以下のように契約するものである。第2条(契約の内容) 甲は乙に対して、財産分与として、金○○万円、慰謝料として金○○万円、合計○○万円を支払う。2 前項の支払いは、平成○○年○月○日を期限とする。第3条(親権者) 甲乙間に生まれた長男○○と長女○○の親権者および監護者は、乙と定める。2 乙は、長男○○と長女○○を成年に達するまで監護、養育するものとする。第4条(養育費) 甲は乙に対して、長男○○と長女○○が各々成年に達する日の属する月まで、平成○○年○月○日より、毎月末日に限り、月々金○万円を支払うものとする。2 前項の養育費は、長男○○と長女○○の進学等特別な事情が生じたとき、また、物価変動その他事情が生じたときには、甲乙協議の上、増減できるものとする。第5条(執行認諾約束款) 甲は、本証書記載の乙に対する金銭債務につき、債務不履行が生じたときには、直ちに強制執行に服する旨認諾した。第6条(面会交流) 甲は毎月1回長男○○と長女○○各々と面会交流することができ、その日時、場所、方法は長男○○と長女○○の福祉を害さないように甲乙が協議して決定する。第7条(請求の放棄) 甲と乙は、本契約に定めた以外には相手方に対し、何らの請求をしないことを相互に確認した。 |
第3条の親権者をご覧ください。このように親権者に関する決め事を記載してください。子どもの続柄は戸籍に書かれている通りにかきましょう。
養育費の請求も忘れずに行う
状況にもよりますが、親権を持った側が相手より経済力がない場合や養育費が必要であれば、相手に養育費の請求も必ず行いましょう。
金銭関係のことは公正証書に
作成した離婚協議書を持って公正役場に行くことで離婚協議書の内容を公正証書にしてもらうことができます。公正役場にいる公証人によって作成された公正証書は、執行力が生まれるので、もし養育費など金銭にまつわる約束が破られた場合は給料の差し押さえ等の強制的に金銭を徴収できる力を持つのです。
金銭関係の約束をした場合は、必ず離婚協議書を公正証書にしましょう。
相手に対する面会交流はどうするか?
親権を持った方は相手に対して子どもと面会交流させるかどうか決めることができます。離婚原因にもよりますが子どもを絶対に会わせたくない場合もあるでしょう。
しかし、親権問題で争っている場合は面会交流権を相手に与えるかわりに譲歩して欲しい点などを伝えやすいというメリットがあります。
交換条件のようなものですが、相手を子どもに合わせて害がないのであればご自身の感情だけで決めるのではなく面会交流の権利を与えたほうが良いケースもあるということを覚えておいてください。
もし自分が親権を獲得できなかった場合|面会交流権を獲得しよう
もし、親権を持てなかった場合は面会交流権を獲得できます。これは離れて暮らす子どもと面会する権利のことをいいます。いくら親権が持てなかったとはいえ、子どもの親であることは変わりありませんので、面会交流権を持ちたいことをしっかりと相手に伝えましょう。
もし親権者を変更したいとき
親権者変更調停を申し立てる
親権者を変更したいときは、親権者変更調停を申し立てましょう。家庭裁判所に申し立てることで、調査官が現在の子どもの生活状況を調査します。
意思表示ができる年齢であれば、子どもから直接話を聞くこともあるようです。これにより、現在の親権者がふさわしくないと判断された場合は、親権者の変更が認められるのです。
親権を喪失させられることもある
親権を獲得したものの、子どもへの暴力や虐待を確認できたり、子どもが良い環境で生活できていないと判断できる場合は、第三者が親権の喪失を申し立てることができます。
協議離婚で親権が決まらないときは調停で争う
協議離婚で親権が決まらない場合は、調停を申し立てて争うことになります。その際に家庭裁判所の調査官によって主に以下のことを調査されるようです。
- 子どもへの愛情
- 現在の子どもの生活状況
- 子どもの意思確認
- 夫婦双方の生活状況
- 子どもと親族の交流関係
調査官の調査をもとに、調停委員を交えて親権問題についての話し合いが行われます。
親権を獲得できる大きなポイントは子どもに十分な生活を送らせることのできる環境を作れるのはどちらの親か?という点になりますので、調停中は調停委員にしっかりと主張をすることが大切です。また、離婚原因を作った側でも親権を持つことは可能です。
まとめ
親権を争う際に最も大切なのは、子どもの幸せを第一に考えるということです。大人の都合で離婚をするわけですから、子どもは一切悪くありません。
どちらの親が子どもを育てるのが、子どもにとって幸せであるかを1番に考えて協議することを忘れないでいただければと思います。そして、子どもにとってはたった1人しかいない大切なお父さんとお母さん、どちらかと離れて暮らさなければならないことは、とても辛いことです。
家族がばらばらになることで必ずショックを受けると思いますので、子どもへの心のケアもしっかり行いながら進めてくださいね。