遺言書の効力と無効になる事例|知っておくべき制限の知識

遺言(いごん・ゆいごん)とは、人の最終の意思を尊重し、死後における意思の実現を保障するための制度で、分かりやすく言えば残された遺族に対して財産処分などの一定の意思表示をするための手段です(民法960条以下)。

遺言の法的性質は相手方のない単独の意思表示とされており、法定の事項について法定の方式に従って行えば、死後にその内容が原則として実行されることになります。

遺産分割等で親族間に争いが生じないよう利用する方も多いのですが、法定の方式を守らないと折角の遺言の効果が100%発揮できない可能性もあることから、準備段階できちんと遺言についての知識を蓄えておくことが大切です。

今回は、絶対に知っておきたい遺言の効力と、無効になる遺言書の例についてご紹介いたします。

※一般には「遺言」を「ゆいごん」と読むことが多いですが、法律用語では「いごん」と読みます。そのため、弁護士等専門家の方と話していると「いごん」と言われることもあるかと思います。「いごん」という単語は耳慣れないかもしれませんが、どちらも同じ遺言のことを指しているのでご安心ください。

目次

遺言書の4つの効力とは|被相続人が遺言書でできること

遺言書(いごんしょ・ゆいごんしょ)とは、遺言を記した書面のことをいい、法定の事項について法定の方式に従って作成することで、死後に遺言者の意思を実現する効力を持っています。

遺言制度は被相続人の最後の意思を尊重して死後にその意思を実現しようとする趣旨なので、遺言によって様々なことを指定することができるようになっています。

まずは被相続人(遺言者)が遺言書によってできることを確認していきましょう。

1.相続に関する事項を指定できる

遺言では、相続に関する様々な事項を指定することができます。

遺産の分割方法

遺言者は、遺産分割方法の指定・指定の委託(民法908条前段)、遺産分割の禁止(908条後段)、遺産分割に関連する共同相続人間の担保責任の指定(914条)を指定することができます。

遺産分割方法の指定・指定の委託

被相続人が遺言によって分割方法を指定するか、相続人以外の第三者に分割方法の指定を委託することを「指定分割」と言います。後述する相続分の指定を含んでいる場合も多いですが、要は「この現金は誰々に、この土地は誰々と誰々で半分こで」といったように遺産分割を指定することができるということです。

すべての相続財産について分割方法が指定されている場合は、遺産分割協議を行う必要がないので、争いを危惧する場合はまずこれを行っておくのが良いでしょう。また、相続人以外の第三者に財産を遺贈したい場合にも、この指定が適しています。

遺産分割の禁止

実は、遺言者は遺産分割を一定期間禁止することも指定できます。相続開始から5年を超えない期間であれば、関係者の頭が冷えるまで分割を禁止することが可能なので、死後のごたごたが片付いたであろう時期を指定しておくのも争いを防止する意味では有効ではないでしょうか。

ただし、この場合でも相続税の納付期限は変わらず相続開始から10ヶ月なので、納税面についても言及しておく方が無難かと思います。

遺産分割に関連する共同相続人間の担保責任の指定

基本的に、相続においてはプラスの財産を取得した分だけマイナスの財産も取得するという原則が採用されています。これは、分割=一種の交換・有償行為と考えられており、共同相続人間の公平を図るために、それぞれが取得した財産分だけ債務や担保責任を負うのが当然であるという理由からです。

しかし、この部分についても遺言者の意思を尊重し、遺言によって担保責任について指定していた場合は、そちらが適用されることになります。

例えば、遺言者が配偶者に現金1,000万円を相続させ、長男に時価1,000万円相当の土地を相続させると遺言した場合で考えてみましょう。このとき、土地が荒れ果てていて売るためにはある程度手入れが必要だったとしても、長男は配偶者に「どうにかして!責任を取って!」と泣きつくことはできない、というのが、大雑把ですがこの条文の考え方です。

相続分

被相続人は、遺言によって相続分の指定・指定の委託(902条)を指示することができます。また、相続人を廃除したり、それを取り消すことも可能です(893条・894条2項)。

相続分の指定・指定の委託

被相続人が遺言によって定めた相続分は、法定相続分に優先します。ただし、この指定も遺留分を侵害することはできないとされているため、例えば相続人が配偶者と長女であった場合に、被相続人が長女に全財産を譲るという遺言を残したとしても、配偶者は遺留分として財産の1/4を長女に請求することができます。

もっとも、遺留分を侵害する指定がなされた場合は、遺言書が当然に無効になるわけではなく、遺留分を侵害された人が減殺請求をできるにすぎないということになっています。

なお、被相続人が一部の相続人についてだけ相続分を指定あるいは指定の委託をしている場合は、他の相続人については法定相続分での相続が行われることになります。

相続人の廃除・廃除の取消し

相続人になる予定の人(推定相続人)に法定の廃除事由(被相続人への虐待など)がある場合、その相続人の相続権を失わせるために相続人廃除を行うのも大切です。ただし、兄弟姉妹は遺留分を有しないため、廃除することはできないとされています。

逆に、既に廃除した相続人が改心し、やはり財産を与えたいという場合には、遺言によって廃除の取消しをすることもできるので、この場合にも遺言を利用することができます。

遺留分減殺の方法

被相続人は、遺留分減殺方法についてもある程度指定しておくことが可能です(1034条ただし書き)。

遺留分減殺方法の指定

民法では、遺留分減殺の際にまず遺贈から減殺していき、次に新しい贈与から順に遡って減殺をすることになっています(1033条~1035条)。この遺贈とは遺言による贈与のことで、複数の遺贈がある場合は目的の価額割合に応じて減殺するのを原則としています。

例えば、相続人が配偶者・長男・次男の3人で、被相続人の遺言により配偶者が現金6,000万円、長男が現金1,000万円、次男が時価3,000万円の土地をそれぞれ取得したとします。このとき、本来であれば長男の遺留分は1,250万円なので、実際に取得した財産との差額である250万円を配偶者・次男に請求することができます。

民法の原則に従えば、この250万円は配偶者:次男=2:1の割合(それぞれが遺贈によって取得した財産の割合)で負担することになるのですが、遺言によって「配偶者の遺贈から先に減殺すること」や「配偶者と次男は同額の減殺を負担すること」等の内容を指定することができます。

2.相続以外の遺産の処分に関する事項を指定できる

遺言者は、遺言によって信託を設定することもできます(信託法3条2号)。いわゆる「遺言信託」と呼ばれるものに似ていますが、要は遺贈と同じようなもので、特定の誰かに財産の処分を託したり、管理をお願いしたりすることができるということです。

3.身分上の行為に関する事項を指定できる

遺言者は、遺言によって後見人・後見監督人を指定することができます(839条・848条)。また、認知(781条2項)をすることも可能です。

後見人・後見監督人の指定

遺言者の死によって残される子が未成年であり他に親権者がいない場合、第三者を後見人に指定しておくことで財産管理などの不安を解消することができます。

認知

婚姻をしていない女性との間にできた子どもについて、遺言者は遺言でこれを認知し、相続人に加えることができます。

4.遺言の執行に関する事項を指定できる

遺言者が遺産分割方法を指定する場合や相続人を廃除する場合には、併せて遺言執行者の指定・指定の委託を行っておくのが好ましいとされています(1006条)。

というのも、遺言者が遺産分割方法を指定した場合であっても、遺言執行者が存在しなければ、共同相続人全員の合意によって指定と異なる分割をすることが可能なのです。また、遺言による相続人廃除の際には遺言執行者が遅滞なく家庭裁判所に廃除を請求しなければならないとされているので、その意味でも遺言執行者は不可欠です。

したがって、遺言の実効性をより高めるためにも、併せて利用したい規定ですね。

遺言書が無効になった事例

遺言は法定の事項について法定の方式で行うことが必須条件です。これらが守られていない遺言書は無効として扱われてしまいますので、ここでは遺言書が無効になった事例について整理していきましょう。

無効になる遺言書は圧倒的に「自筆証書遺言」の場合が多い

そもそも、遺言書が無効になるのは法律どおりに作成されていないパターンが大半なので、簡単に作成できる自筆証書遺言が無効になるケースが圧倒的に多いです。

ただし、公正証書遺言ならば絶対に無効にならないかと言えば、そんなことはありません。形だけ法定の方式を守っていただけでは無効になる可能性が残ってしまうので、遺言者本人の健康状態や遺言がなされた状況にも注意を払って、きちんと手順を踏んで遺言を作成する必要があります。

それでは、実際に無効になってしまう遺言書と、そうならないためのポイントを見ていきましょう。

自筆証書遺言の場合

自筆証書遺言が無効になってしまうのは、下記の事例が多いです。

①自筆以外で作成された遺言書

前述したとおり、パソコン等で書いたり、録音・録画された自筆証書遺言は、すべて無効として扱われます。

ポイント:必ず全文を自筆で書くこと

②署名・押印の不備

署名がなかったり、他人が代筆した署名の遺言書や、一切押印のない遺言書は無効になります。

ポイント:必ず自署押印をすること

③日時が特定できない遺言書

自筆証書遺言は、何度でも作ることができ、新しい遺言で古い遺言の内容を訂正することもできます。したがって、作成年月日が重要視され、日付のない遺言書や作成年月日ではない日付が記載された遺言書、そもそも作成日時の特定できない遺言書は無効になります。

ポイント:必ず作成年月日を記載すること

④内容が不明確な遺言書

相続する財産の内容が不明確であったり、「相続人は仲良く暮らしてください」といった訓示的な内容のみの遺言書は無効となってしまいます。もちろん、相続人間の平和を望む内容を記載すること自体は問題ありませんが、そういった部分は「付言事項」として法的効力を持たない部分になりますので、その点には留意しましょう。

ポイント:

  1. 相続の内容等は細かく具体的に記載する
  2. 遺産分割等に希望がないのであれば法定相続分での相続になることを留意する

⑤夫婦など2人以上が共同で作った遺言書

民法では、遺言者個人の意思を最大限尊重する趣旨から、共同遺言を禁止しています。このことから、1通の遺言書に2名以上の遺言がある場合は、共同遺言として遺言自体が無効になる可能性があります。

もっとも、1つの封筒に2通(2名分)の独立した遺言書が入れられている場合には共同遺言にあたりませんし、1通の証書であっても2名がそれぞれ独立した内容の遺言をしている場合には、共同遺言にあたらないとされるケースもあります。逆に、2名以上で共同して作った遺言にあえて1名分しか署名をしないという方式違背をしていても、共同遺言として無効にされるケースもあります。

ポイント:遺言書は個々人が独立して作成する

公正証書遺言の場合

公正証書遺言が無効にされるのは、証人が不適格だった場合や足りなかった場合、遺言者が公証人に口授でなく身振り手振りで遺言内容を伝えた場合など方式違背であるケースが多いのですが、その他に「認知症等の人が行った公正証書遺言」のケースでも注意が必要です。

公正証書遺言は、公証人役場での作成のほか、自宅や入院先の病院、老人ホームなどへ公証人に出張してもらうことで作成が可能になっています。そのため、中には遺言能力がない方が遺言しているというケースもあり、しばしば裁判で遺言の有効性が争われています。

遺言の有効無効は、遺言作成時に遺言能力(遺言を有効に行うことが出来る能力)があるかどうかによって変わってきます。言い換えれば、公証人が遺言能力を認めて公正証書遺言を作成した場合であっても、それに異議を唱える人が医師等の判断を証拠に「遺言時に遺言能力がなかった」と主張しそれが認められてしまったら、その遺言は無効になってしまいます。

したがって、公正証書遺言だからといって安心せず、遺言者自身に遺言能力があるかどうかもきちんと判断して遺言を作成していくことが大切です。

遺言書は無効にならないが一部効果が制限される場合もある

以上が無効となる遺言書の例とそうならないためのポイントですが、遺言書自体は有効であっても一部効果が制限されるケースや、遺言書は無効であっても結果として内容が実現できるケースもあります。

ここでは、遺言書の効果が制限されるケースと、遺言書の無効を争う方法、遺言書が無効になってしまったらどうなるかについてご紹介いたしますので、チェックしていただければ幸いです。

遺言書でも遺留分は奪えないことに要注意

先に述べたとおり、遺言書によって相続分や遺産分割方法の指定がなされていた場合であっても、遺留分だけは奪うことができません。

そもそも遺留分とは、兄弟姉妹を除く法定相続人に認められた最低限の遺産の取り分のことで、これらの人々の生活保障が制度趣旨であることから、遺言に優先して保障されることになっています。

仮に遺言によって相続廃除を行った場合でも、廃除は代襲原因になることから、廃除した相続人が遺留分の権利を有していれば代襲相続人にその権利が引き継がれることになります。

したがって、遺言をする上では遺留分に配慮した相続分等の指定を行うのが大切です。もっとも、レアケースではありますが、遺言者が生きている間であれば、遺留分の権利を有する相続人は家庭裁判所の許可により「遺留分の放棄」をすることができます。

家族に重篤な障害を持つ人がいる場合や、家業存続のため特定の相続人に財産を集中させたい場合など、相続人間で遺留分について放棄の合意がなされているのであれば、こちらの制度を利用するのもおすすめです。

遺言書が無効であることを主張したい場合

遺言書について、その無効を主張して争いたい場合には、家庭裁判所へ「遺産に関する紛争調整調停」を申し立てる必要があります。

遺言が有効であるかどうかは最終的には裁判で判断するケースが多いのですが、遺言については「調停前置主義」という原則が採用されているため、まずは調停を申し立てて話し合い、解決できなければ訴訟に移行するという流れで手続きを進めなければなりません。

遺言書が無効であることを主張したい場合には、遺産に関する紛争調整調停を申し立てると共に、無効である根拠となり得る客観的な証拠(例:遺言者が認知症等である場合→医師の診断書・鑑定書など)を集めておくのが良いでしょう。

なお、仮に自分に不利な遺言であっても、隠したり内容を変造・偽造するのは絶対にNGです。これらの行為を行ってしまうと、最悪の場合刑事罰を受けたり相続権が剥奪されてしまうことになるので、きちんと調停等の手続きを踏むのが大切です。

もし遺言書が無効とされてしまったらどうなるか

裁判等で遺言書が無効と判断された場合、遺産分割は相続人全員での遺産分割協議によって進めることになります。

遺産分割協議は全員の同意が必要なものなので、納得いくまで話し合うか、そうでなければ再度調停や裁判によって分割内容を決定していくことになるでしょう。

遺言書は無効でも内容が実現されるケースもある

こちらも稀なケースではありますが、遺言書に不備があり遺言としては無効であっても、結果的に遺言内容通りの相続が行われる場合もあります(東京地判平成19年5月31日、広島高判平成15年7月9日など)。

例えば、生前遺言者が長女に対し「自分が死んだらこの家を相続しなさい」と話し、長女も「ありがとう、そうするね」というようにこれを受け入れていた場合、死因贈与としての効果が認められるケースがあります。

遺言が無効になった全てのケースでこのような効果が得られるわけではありませんが、遺言内容と生前の被相続人・相続人の関係ややり取りによって遺言内容が実現できるケースもありますので、このような場合は弁護士等専門家に相談するのが良いかと思います。

まとめ

いかがだったでしょうか。

遺言、特に自筆証書遺言については、家にある筆記具で誰でも簡単に作ることができるので、利用件数も多いものですが、法定の方式を守って作らなければ折角の意思表示が無駄になってしまいます。

遺言は死を連想させるため、どうしても乗り気になれない方も多いかと思いますが、遺言をすることによって相続が争族になる可能性を減らすことができる場合が多いので、前向きに利用を考えていただければ嬉しいです。

本記事が、少しでもお役に立てれば幸いです。

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